浮上

姉の夫は赤ちゃんの匂いが好きなのだという。
確かに、姉の8ヶ月の子供はうちの玄関を入ったその瞬間から、
幸せのようなほほえみのような、なんともいえない香りを発散する。
もっと小さなころは、力をこめて涙するたびにその香りがフンフンと強く飛んできていた。
私はその香りにあてられるたびに麻酔を浴びたように恍惚と幸せになれるのだ。


「夢を与える」を読んだ。前2作は、設定が学校というあたりで拒否反応がでたが、
今回は意図的に学校以外を舞台としているようだったので、ようやく読むことが出来た。
文章の透明さ、というのは字面からしても分かり難い表現だけれども、
そう表現せずにはいられない。その力は凄い。しかも書評などを見る限り、
多くの人がそれを感じている。そういうのも凄い。
筋立てがいかに昼ドラ的であろうとも、人間を描く、空間をつくる、共感させる、
というのは文芸だけでなく様々な芸術のもっとも単純で究極の目的なのでは。
ラストにかけて、あのあたりはきっともっと執拗に書くことができるはずなので、
その辺は物足りなくもあったけれど。
若くして成功した人が奢りもせず溺れもせず、おそらく年相応の生活経験を経て
こういうものを書いたところに驚いた。

夢を与える

夢を与える